2019年8月3日に本学会の創設者である成瀬悟策先生がご逝去されました。
リハビリテイション心理学研究第45巻1号に掲載されました,本学会の大野博之理事長による追悼文につきまして,許可を得て以下の通り本学会Webサイトに掲載致します。

 

成瀬悟策先生のご逝去を悼む

大野 博之

成瀬悟策先生は大正13(1924)年6月5日にお生まれになり,95歳で今なお現役でした。今年に入った2月にお会いしたのですが,その折もとてもお元気でした。本年8月3日にお亡くなりになられたとの突然の訃報にまさかという驚きを禁じ得ませんでした。

成瀬先生は,私が九州大学教育学部2年生の折,東京教育大学助手から九州大学教育学部助教授として赴任され,その後すぐに教授に昇任されました。今日に至るまで57年の歳月が流れていますが,国の内外を問わず,多岐に渡る分野で活躍されていたので,その一端をお手伝いするだけでも気が抜けない日々が続いていました。

先生は,日本リハビリテイション心理学会の初代理事長(現名誉理事長),日本臨床動作学会の初代理事長,日本心理臨床学会の初代理事長を務められるなど,心理学界の歴史上の第一人者であることは広く知られているところです。この分野の老舗である日本心理学会においても,学会理事を1971年~1975年(2期),1981年~1986年(2期),1995年~1996年(2期)を務められ,この間日本学術会議第12期会員を併任されるなど,文字通り重鎮としての役割を果たされてきました。

先生のご功績により,第1回速水賞をはじめ,第1回東京文理科大学記念賞,西日本文化賞,辻村賞,第1回日本心理臨床学会賞,勲二等瑞宝章・正四位など数々の賞を受賞されています。

ニューヨーク大学客員助教授(1961),第1回国際催眠学会(ニューヨーク)招待(1961),第6回国際催眠学会(ウプサラ)招聘(1973),Fuculty Menber, International Graduate University, Swizerland(1976),ミルトン・エリクソン財団(フェニックス)招聘(1981),第1回国際イメージ学会(クインズタウン)招聘(1983),第2回国際イメージ学会(スワンジー)招聘(1984)に加え,第3回国際イメージ学会(福岡)大会長(1987),第1回国際アジア催眠学会(福岡)大会長(1987)を務められるなど,催眠に関する研究は国際的にも高く評価されています。

九州大学在任中やその後の研究において催眠を基礎とする脳性マヒ児の動作研究に取り組まれ,脳性マヒ児・者の動作とその不自由の解明に心血を注がれました。生きた人間が動作の実現を意図し,その遂行のための努力を重ね,その結果として生じる動作の体験様式との関連の中で全体的に捉えた時に始めてその本質が理解できるという,斬新な視点から主体活動のあり方を変化させ,不自由動作の改善に大きな効果をもたらすことを実証されました。心理リハビリテイションの会初代会長(1974)及び日本リハビリテイション心理学会初代理事長(1985)に就任以降は,障害児・者や一般の人たちに適用できるようにするために動作訓練,動作法,臨床動作法の理論と実践技法の開発に尽力されました。ご自分のことを「オレ」と呼ばれ,オレがスイッチを押すことが人間の主体的行動の原点であるとの主張から「人の魂」を熱く語られる姿勢は受け取る側の魂を揺さぶるほどの迫力がありました。

先生,大変お世話になりました。ありがとうございました。心からご冥福をお祈りします。

(リハビリテイション心理学研究,45(1),1.)